こぎん刺しのテディベア作家 kogin*bear style

あなたの心に寄り添える、こぎん刺しを取り入れたテディベア、クマ雑貨を作ります。作品販売先・イベント出展情報・問合せ先は各ブログ記事末尾をご覧ください。

ショートストーリー

MOONSTONE

天窓から、細い月が見える。太陽の光を反射して輝くという月は白く儚くけれど鋭い。 眠れない夜。旅の空。時間を刻むのは僕の懐中時計ではなく、宿の置き時計。 明朝、僕はこの街を離れる。 駆け出しの歴史学者の僕がこの街に来たのは、史料と史跡の調査が目…

残り香

わかっている。これは一時の夢、幻。 灯りを落として寝所に身を横たえ、蟠る想いを振り切るように閉じる瞼。長い睫毛。 広がる女の黒髪が闇とひとつになり、自身も溶けるように眠りに落ちる。 暁。青白い空。ぼんやりと、でも強い、夏に向かう朝の光。 目を…

石段の上の、陽炎

不意に呼ばれた名前は、旧姓。結婚して随分経っていたから、一瞬、自分のことだと分からなかった。 いつものように石段を登ったその先の、白い車。すぐそばに立つ、スーツ姿の男性(ひと)。その声で、その呼び方で、閃くように遡る記憶。まさかと思うけど間…

ごめんなさいが言えないままに

「受験っていろいろ大変なんだよ。高卒のくせに口出さないで」 大学受験を控えていた頃。バスの中で発売になったばかりの漫画を読んでいたところを母に見つかった。単語帳を読んでいた子もいたのによく漫画読んで平気だねと言われて、むかついて思わず口走っ…

いつか見た夕日~ここではないどこかへ

同じような毎日が続くと、ふと違う所へ行きたくなる。 昔からそうだった。 小学校の時は、家と反対の方向に歩いて行きたくなった。学校の近くの川にかかっている橋を渡った世界を見たかったのである。とはいっても何が変わるわけではないし、車で何度も通っ…

柱なき琴糸

「好きだ。誰にも渡したくない」 不意に抱きしめられて、耳元に低く聞こえた貴方の言葉。後れ毛を揺らす吐息。 こんなに近く、肌の熱を感じたのは初めて。身体を包む体温と香りに、気を失いそう。鼓動が早くなる。 白いシャツの胸元が視界に入る。同時に、化…

少女ごころは秘めて放たじ

くらり、眩暈がした。 その場からとにかく離れたくて、廊下を走って、階段を駆け上がる。 息を切らして屋上の扉を開けると、プールの水面が目に入った。同時に、倒れ込むように飛び込んだ。 仰向けに浮かぶ。水が入った耳は一瞬何も聞こえなくなる。切り取ら…

Branch road~ライラックの咲く街で

「終わりに、しよう」 秋も深まった10月。学校からの帰り道。私は自転車を押して並んで歩く彼に言った。彼が、東京の大学に推薦で合格したと知った。おめでとう、よかったね。の後に出てきた言葉は、別れの言葉だった。私は栄養士になるため、地元の女子大に…

「住吉町の桜」

あれは大学に入学したばかりの頃。夜に何人かで食事に行って、自転車の荷台に載せてもらって川沿いの道を走っていた。道沿いの街灯の白い光をきらきら照り返す浅い川が流れていて、対岸には小さな駅と線路があった。 上気した頬に、自転車を漕ぐ背中の心地よ…

「隠沼」

ここは病室だろうか。ベッドが並ぶ殺風景な部屋。そのひとつに私は横たわっていた。恐怖で目を閉じたいのに出来ない。これから、銃剣で突き刺されて殺されるのは分かっていた。やがて緑の軍服姿の人が二人、銃剣を携えて入ってきた。私を見下ろした、その青…

A transparent girl.

あの子になりたい。できるなら。 鏡に映る細くて小さい目が嫌だった。目力なんて微塵も感じられない、おどおどした小さな目。よせばいいのにシマウマのように離れているから余計にたちが悪い。 薄い眉毛と薄い唇もコンプレックスだった。よく見れば顔のパー…

ルフラン

外出から帰って、自室の鏡の前に腰を下ろした。 誘われて、桜を見に行ってきた。 雪が消えたばかりの頃は、どことなく土埃の匂いがする。冬のコートを脱ぎ、軽い春の装いで出かけられることにも気分が弾む。日傘越しの陽射しが柔らかな日曜。 そこかしこが薄…

春雨

顔に何か微かなものが当たる感触、ひとつ、しばらくしてまたひとつ。あめ、と思った。背中から滑り落ちた髪の先が琴の絃に触れて立てる音のように、気が付かなければそのままになってしまいそうな、雨の降りはじめ。 紫がかったように見える春の曇り空の朝だ…

escape

ビルの谷間にあるその公園は、「避難場所」だったんだと気付いた。 何か嫌なことがあったときに逃げ込める、心の避難場所。 ある日、この公園を見つけた。そして前を通るたび、何のためにこんな狭い公園があるのだろうと思っていた。 時計と滑り台のような遊…

黄色の花の咲く家で

ばあちゃんの家、と言うと家の前にあった木を思い出す。 何の木だったのかわからないが、黄色い花をつける木だった。 兄弟や従兄弟の中で、子供の頃から勉強もスポーツもぱっとしなかった俺だったけど、ばあちゃんだけはいつも優しかった。 ばあちゃん家に行…

忘れないで。いつもそばにいるよ。~小さなクマより。

オフィスでの昼休み。 周りの人はいつものように、財布を持って外に出たり、お茶を入れたり。 少し騒がしくなる中で、仕事を続ける人もいる。 外に出る人は出て、お弁当の人は席に着くなど、落ち着くのを待ってオフィスを出る。 ロッカールームに入り、自分…

ここにしかない贈り物、探しませんか?2~こぎん刺しのGift展

仲が良かったあの子と、何となく疎遠になっていた。 ちょっとしたきっかけで意気投合して、 帰り道にカフェやレストランに寄った。 びっくりするほど好みも似ていて、 休日には一緒にショッピングとか、 日帰り旅行に出かけた。 嫌いになったわけでも、仲違…

紅い翼~総刺しこぎんクマ 連獅子

獅子は険しい谷から我が子を突き落とし、 子が這い上がってくるとまた突き落とし、 それでも登ってきた、本当に強い子だけを育てるという。 父の獅子に突き落とされ、 子獅子は必死で這い上がる。足の力はまだ弱く、小さな身体で崖を登るのは難しかった。 傷…

ここにしかない贈り物、探しませんか。1~こぎん刺しのGift展

会社の先輩が、3月末で転職すると知ったのは去年の暮れのことだった。入社後、僕が今の部署に配属されてから、 今までずっと一緒に仕事をしてきた女(ひと)だった。 新人の頃のミスや失敗もさりげなくカバーして、どんなに大変な時でも取り乱すことなく冷静…

小さなメリークリスマス

いつからだろう。クリスマスが特別な楽しい日から、ただの日になったのは。ハロウィンが終わると街はクリスマス一色になる。しかし日本では、多くの社会人にとって仕事で、しかも年末だ忘年会だと忙しい時期。 正直なところ、クリスマスどころじゃないよなー…