顔に何か微かなものが当たる感触、ひとつ、しばらくしてまたひとつ。
あめ、と思った。
背中から滑り落ちた髪の先が琴の絃に触れて立てる音のように、
気が付かなければそのままになってしまいそうな、雨の降りはじめ。
紫がかったように見える春の曇り空の朝だった。
昨夜、ずっと仄かに好きだった人と、そう言う事になった。何の前触れもなかった。
互いの想いには気づいていた。だからいつかはそうなってもおかしくなかったのかもしれない。けれど、それはあり得ないと思っていた。
偶々、手が触れた。私の指先を捉えて絡めてきた長く乾いた指。同時に、人気のない路肩に車を停め、サイドブレーキを引く手。シートベルトを外して助手席の私を抱き寄せた。頬に触れたスーツの上着の生地。間近に感じるあの人の匂い。接吻を交わし、それから。
「抑えられない。ずっと、君を…」
肩から春物のコートが滑り落ちた。ワンピースの上から背中を撫でる掌の熱。抱きしめる腕の力が強かった。
だめ、と言葉が漏れる。それ以上、抗うことはできなかった。
事のあと、あの人を残して一人で出てきたのがせめてもの抵抗だった。
物語にもならない恋、現実とはそんなものかも知れない。
そのあとは近くにあった24時間営業のレストランで過ごした。
周囲の人の会話、外を行きかう車のランプ、そんなものを見るともなく見ていた。
夜が明けて、始発電車が動く頃、
店を出て、帰宅しようと駅に向かって歩き出した。
早朝の世界。まだ外は仄暗い。今はとにかく早く帰りたかった。誰もいない一人の家へ。
人と顔を合わせたくなくて、俯き加減に歩く。
その時、頬に微かな感触を覚えた。
雨が降るならちょうどいい。傘で顔を隠せるから。
ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝は物をこそ思へ
(待賢門院堀河『千載和歌集』恋三)
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おはようございます。
こぎん刺しのテディベア、ベアグッズ製作の、kogin*bear style こひろです。
物語に「この物語はフィクションです」と言う注意書きは必要だろうか。
物語は虚構なのだから物語であって、同じ注意書きなら「これはノンフィクションです」の方が適切な気がする。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
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