外出から帰って、自室の鏡の前に腰を下ろした。
誘われて、桜を見に行ってきた。
雪が消えたばかりの頃は、どことなく土埃の匂いがする。冬のコートを脱ぎ、軽い春の装いで出かけられることにも気分が弾む。日傘越しの陽射しが柔らかな日曜。
そこかしこが薄紅色の霞に包まれたようなお城はまるで幻想のようだった。
夢見心地なのは、そのせいだけではなかった。
髪に結んだ白いリボンの端に触れ、指先でそっと引く。絹が擦れるような、かすかな音を立ててふわりと解ける。
外したリボンを鏡台に置き、束ねていた髪をほどいた。背中の上をすべり、顔を振ると横の髪が頬を撫でた。
その頬がまだ少し熱い気がする。甘い余韻。
満開の桜の下でのことだった。私の少し先を歩いていたあの人は、不意にこちらを振り向いた。
「私の恋人(ひと)になってください」
目にかかる長い前髪。いつものはにかむような伏し目がちな瞳は、まっすぐにこちらを見ていた。穏やかな人と思っていた。柔らかな声で語られる、確固とした意志を秘めた言葉。
「…諾(はい)」
私の返事を聞いたあの人は、安堵したように微笑んだ。
「良かった。断られたらどうしようかと思いました。初めて見かけたときから、綺麗な方だと思って。それからずっと、愛しく想っていました。貴女と共に居られたらどれだけ幸せかと…」
はじめて思いを告げられたことと、語られる言葉に頬が熱くなり顔を伏せた。頭の上、結んだ髪のあたりから、見つめられる気配を感じた。
「綺麗な髪…光が重なって宝石みたいだ」
指で軽く梳いてから、櫛を取り、毛先から梳く。櫛を通していくうちに、結い跡がとれて、光るような艶を帯びてゆく。髪の先は座った脚に届くほどに伸びている。
「また、逢いましょう…次は二人で」
別れ際、あの人は私に手を差し出してそういった。そっと触れた私の手を優しく包んだ掌。
多分初めての、恋。
その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな(与謝野晶子『みだれ髪』)
おはようございます。
こぎん刺しのテディベア、ベアグッズ製作の、kogin*bear style こひろです。
与謝野晶子『みだれ髪』は五感と肌で感じたことに基づいて読まれた歌、と言う印象があります。肌で感じたことを表現するということを実際に試してみました。
それにしても、東京の桜と弘前の桜は、意味が全然違う気がする。咲く時期も。
連休に咲くのが当たり前と思ってきたから、三月下旬に咲くのはついていけない。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
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