灰色の景色の中に差す光が、少しずつ明るい金色の輝きを増してくる。
そうなると、確実に春は来ていると感じる。
もう3月、人々の新しい道への期待、環境が変わることの不安、
寒暖差のある天気も手伝って、どこか落ち着かない季節。
早春の空気や光はいつも私を不安定にさせた。
地下鉄の駅の出口を出たところで、世界が揺れた。
朝から疲れがひどく、整体かマッサージでも行ったほうがいいかと思っていたから、眩暈を起こしたと思った。
近くにある建物のドアが揺さぶられて音を立てている、と気づいたのと同時に、
「地震！」と叫ぶ女性の声が聞こえた。
遠くにある工事用のクレーンが大きく揺れていた。
しばらくして揺れが収まると、周りにいた人々はざわめきながらも少しだけ平静を取り戻した様子だった。
立ち止まっていた人々は皆それぞれ行くべき場所へ行くように散って行った。
当時一人暮らしの私は、一人で東京で震災に遭った。
外での仕事を終えて歩いて事務所へ戻り、宮城県で震度6、というニュースを聞いた。
交通は止まり、これからどうなるのだろうという気分になった。
夜になり、歩いて帰宅する人も出る中で、私は事務所にとどまることにした。
事務所は自宅から遠く、道もわからない夜に、
一人で帰れるとは思えないし、却って危険だと思ったから。
まだ買い物はできたので近くのスーパーに行き、食事やさしあたって必要なものを買った。
結局、夜23時頃に地下鉄が動いたので、それに乗って帰った。
自分の部屋では雑誌が多少崩れていたものの、大した被害はなかった。
巣穴に籠る獣のように、布団に入ってとにかく眠った。
翌日からも余震は続き、家にいる間はラジオをつける生活が続いた。
宮城や岩手、福島県の家族や友人知人にあてた「無事ですか」のメッセージがずっと流れていた。
合間に余震の情報、ライフライン情報、避難情報など。
水を確保したり買い物をするにも必死だった。
何をしていても、揺れがこないか気にしながら生活していた。
そのあとの諸々に対処しながら、一人で仕事と自分の生活に向き合った。
でもそれは、人が思うほどつらいことではなかったのかもしれない。
大切な人を失う方がつらいと思うから。
私は直接の被災者ではないし、身近な人はみんな無事だった。
ただ分かったのは、ありふれた日常は簡単に壊れるということ。
震災後、家族の大切さに気づいて結婚する人が増えたと聞いた。
逆に、その非常事態を経てこの人とはやっていけないと離婚する人も出たという。
私は「震災破局」を経験することになった。
理由はまさしく、非常事態の中で「自分に対する愛情が薄い」私とはやっていけないと相手に言われたから。
電話の向こうで理由を述べる相手の言葉が宇宙人のように感じた。
自由になれてよかった、と言うのが感想だった。
おはようございます。
こぎん刺しのテディベア、ベアグッズ製作の、kogin＊bear style こひろです。
あの震災の時のことを書こうと思って書いてみました。
あの日は温かかったのか寒かったのか思い出せないのですが、
目に入る空や景色が灰色と白だったことを覚えています。
それは震災当日だけでなく、あの時期全体がそうだったような印象があります。
私は直接、被災していませんが、あの日から日常が大きく変わったように思います。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
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