強い強い風が、桜の木を揺さぶる。
枝は撓められ、花弁は零れるように降り、攫われていく。
まだ少(わか)い春の神様が、悪戯にゆさゆさと花を散らしているよう。美しいものを愛でるだけでは収まらず、手に触れて壊してみないと気が済まないような、幼い無邪気さと残酷さ。
やや盛りは過ぎたものの、花見はこれからという頃。人の嘆きが聞こえそうだ。
桜なんて、なくなればいい。
浮き立つ季節。そう思っていた、いつも。
春になると、曇天の鉛を飲み込んだように重く沈んだ。そう感じるのは私だけのようだ。周りの人はみな、春になると楽しそうで。薄紅に彩られた世界。新しい出会い。新しい環境。笑い語り合う人々。目を、耳を塞いでこの季節が過ぎるのを待つ。
「どうしてこんなことしたの」
幼い日の叱責の声が蘇る。花壇のチューリップを毟ってしまった。花があることで、悲しさが増していくような気がした。どうしようもなく悲しくなって、花を摘み取った。赤、オレンジ、ピンク、黄色。ばらばらになった花弁。気がついたらあたりは色彩にあふれていた。色が滲んだ。そこへ厳しい声が飛び、我に返った。
（言ったって、わかってもらえないだろう）
ひとりで過ごす教室。たった30分の休み時間をもてあまし、国語の教科書のまだ習わない物語を読んだ。戦争を扱った、悲しい話。読み終わると図書室の本を読んだ。
そうして必死で時間をつぶしていると、「どうして外で皆と遊ばないの」と、責められた。先生も同級生も、みんながわかるはずの言葉がわからない。同じ日本語なはずなのに、みんながわかるところで、私は理解できない。まるで違う世界に生きているようだに。
そういう気持ちを抱えていることなんて、理解されないだろう。
思えばこれが、春が巡る度に来る憂鬱の原点だった、かもしれない。
夜になり、叩くような音が聞こえた。春雨。
地面を屋根を、微かに叩き続ける水滴。時折風にさらわれ、ざあっという音が聞こえた。
昼間の、花散らす風を詫びるような雨音。
花を散らした風が幼い神なら、この雨はそれより少し年嵩の姉のような。
幼い妹のいたずらを赦し、花を愛でる人々に詫びる。そんな優しい姉姫の涙雨。
雨は嫌いじゃない。殊に春の雨は。
おはようございます。
こぎん刺しのテディベア、ベアグッズ製作の、kogin＊bear style こひろです。
先日は花を散らすような強風でした。
暖かくはなりましたが。
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